<魚眼図>年金照合その後
以前この欄で短期間に数千万件の年金情報の照合ができるはずがないと指摘したが、最近になってようやく政府もそのことを認めたらしい。政府が公約を破ったのではないかという政治的な問題になっているが、日本にとって深刻なのはそういう問題ではないと思う。
もちろん嘘(うそ)をつくのは悪いことで、できもしないとわかっていてできると言ったとすればそれはそれとして非難されるべきである。しかし、意思決定者が正しく認識していてあえて嘘をついていたのであれば、嘘をつくことはともかくとして正しく認識できているだけましである。
今回の件については、年金情報の照合が政府の言ったようにすぐにできると信じた人がいたとすれば、考え直してほしい。情報の専門家にとっては、それほど「ありえない」公約だったのである。
深刻なのは、意思決定者が短期間で照合できると本当に信じていた場合である。そう信じてしまったとすれば、意思決定者として能力を決定的に欠くと言わざるをえない。本人あるいはブレーンの人間がちょっと考えれば「ありえない」のは明らかだったからである。
嘘つきだが有能な人と正直だが無能な人のどちらに日本を任せるかは非常にむずかしい選択であるが、どちらかを選ばなくてはならないなら前者を選びたい。無能な人は正しい判断ができないが、有能な人は(嘘をついたとしても)正しい判断をしてくれるはずだからである。その意味で、今回の件も政府は「ありえない」と認識して嘘をついていたと思いたい。そうでなければ救いがない。
(松原仁・はこだて未来大教授=人工知能)
2007/12/21