<魚眼図>年金情報の照合
支払ったはずの年金の情報が見つからないことが大きな問題になっている。このような事態を招いてしまった社会保険庁を含めた政府の責任は重いと思うが、それはさておき、政府が年金情報の照合を短期間に必ず済ませると言っているのが非常に気にかかる。コンピューターを使えば簡単にできるとのことであるが、彼らが言っているほど簡単な作業ではない。
コンピューターにとって同一性の判定は非常に簡単である。正しいデータがコンピューターにおさめられていれば、それを瞬時に取り出せるという意味である。それに対して類似性の判定は非常にむずかしい。同じかどうかはすぐにわかるが、似ているかどうかはコンピューターには判断できないことが多い(ちなみに筆者の専門である人工知能はそこを何とか改善しようと研究している)。そして年金情報の照合はまさに類似性の判定なのである。
データが正しくおさまっていない(かもしれない)ときに正しいものと照合するためには、どこの部分が間違っているかを見極めないといけない。しかし間違い方にはさまざまな可能性がある。番号が違う、名前が違う、年月日が違う、住所が違う、金額が違うなどであり、これらの間違いが複数重なっているかもしれない。これらの誤りを含むデータをコンピューターだけで正しいデータと照合することは(いまの技術では)不可能である。必ず人が確認しないといけない。
そういうことを考えると、短い期間に膨大な情報の照合をするのはとても無理である。この事実は情報の専門家にとって当たり前であり、政府の意思決定をする人に伝わっていないとすればゆゆしきことだと思う。
(松原仁・はこだて未来大教授=人工知能)
2007/08/28