2007 年 8 月 28 日

<魚眼図>年金情報の照合

カテゴリー: 魚眼図 — Column @ 12:00 AM

支払ったはずの年金の情報が見つからないことが大きな問題になっている。このような事態を招いてしまった社会保険庁を含めた政府の責任は重いと思うが、それはさておき、政府が年金情報の照合を短期間に必ず済ませると言っているのが非常に気にかかる。コンピューターを使えば簡単にできるとのことであるが、彼らが言っているほど簡単な作業ではない。
コンピューターにとって同一性の判定は非常に簡単である。正しいデータがコンピューターにおさめられていれば、それを瞬時に取り出せるという意味である。それに対して類似性の判定は非常にむずかしい。同じかどうかはすぐにわかるが、似ているかどうかはコンピューターには判断できないことが多い(ちなみに筆者の専門である人工知能はそこを何とか改善しようと研究している)。そして年金情報の照合はまさに類似性の判定なのである。
データが正しくおさまっていない(かもしれない)ときに正しいものと照合するためには、どこの部分が間違っているかを見極めないといけない。しかし間違い方にはさまざまな可能性がある。番号が違う、名前が違う、年月日が違う、住所が違う、金額が違うなどであり、これらの間違いが複数重なっているかもしれない。これらの誤りを含むデータをコンピューターだけで正しいデータと照合することは(いまの技術では)不可能である。必ず人が確認しないといけない。
そういうことを考えると、短い期間に膨大な情報の照合をするのはとても無理である。この事実は情報の専門家にとって当たり前であり、政府の意思決定をする人に伝わっていないとすればゆゆしきことだと思う。
(松原仁・はこだて未来大教授=人工知能)
2007/08/28

2007 年 8 月 9 日

<魚眼図>チェッカー

カテゴリー: 魚眼図 — Column @ 12:00 AM

チェッカーというボードゲームがある。チェック(市松模様)の語源となった二人でプレイするゲームで西欧ではよく知られているが、日本での知名度は高くない。チェスと同じ八×八の盤でそれぞれ十二の駒を持っている。敵の駒を飛び越えると取ることができて、先に敵の駒を全部取ってしまえば勝ちになる。
このゲームはコンピューターにとってはチェスよりやさしく、一九九○年代の前半には既に人間の世界チャンピオンよりもコンピューターの方が強くなっていた。その後、研究者はチェッカーを数学的に解くこと、すなわちチェッカーの必勝法を解明すべく研究を進めてきた。
ある種のゲームには理論的に必勝法が存在することがわかっている。簡単に言えば、二人でプレイして敵の情報がわかっていて偶然性がはいらないゲームには必勝法が存在する。オセロ、五目並べ(連珠)、チェス、将棋、囲碁などのゲームに必勝法が存在することになる。必勝法が存在するというのは、そのゲームをプレイし始める前から勝負の結果がわかっていることである。どちらも間違えなければ(最善手を選べば)、先手が勝つか、後手が勝つか、引き分けになるか決まっている。みなさんも小さいころにプレイしたであろう三目並べ(まるばつ)にも必勝法は存在する。お互い最善を尽くせば引き分けになるゲームであった。
さて、チェッカーは引き分けになるゲームであるという論文がサイエンスに掲載された(著者の一人である岸本章宏は本学の教員である)。チェッカーの必勝法が解明されたのである。さいわい、将棋や囲碁の必勝法はずっと解明されそうにない。
(松原仁・はこだて未来大教授=人工知能)
2007/08/09

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