2003 年 4 月 8 日

<魚眼図>イカの元さんの死を悼む

カテゴリー: 魚眼図 — Column @ 12:00 AM

理化学研究所の研究者である松本元(げん)さんが三月九日に病気で亡くなった。六十二歳の若さであった。
筆者は工業技術院電子技術総合研究所(電総研)という旧通産省の研究所で彼の同僚だったので、彼の早すぎる死に大きな衝撃を受けた。彼の専門は脳科学で、その分野では世界的な研究成果を挙げているが、研究者の間では“イカの元さん”として有名だった。「神経を解剖して実験をするには、神経が大きい方が望ましい」。ヤリイカの神経が大きいことに目をつけ、元さんはヤリイカを実験材料として選んだのである。
実験をするにはイカが生きていないといけないが、元さんが研究を始めた数十年前にはイカを水槽で生かしておくことができなかった。彼は何年も試行錯誤を重ね、イカを水槽で飼うことに初めて成功した。イカが壁にぶつからないように丸い水槽にすること、アンモニアに侵されないようにアンモニア吸収酵素をいれておくことがポイントだったそうである。
同僚時代には実験の残がいであるヤリイカの刺し身をよくごちそうになった。彼はヤリイカを材料に多くの優れた研究成果を挙げた。イカを飼うためのノウハウは特に権利を取らなかったので、全国の料理店で(彼の成果であるとは知られずに)広く用いられている。昨年大沼で開かれた研究会に彼も出席した。その懇親会でイカの生き作りを見て、「あのとき権利を取っておけば今ごろ大金持ちだったのに」と笑っていたのが思い出される。
常識にとらわれない、スケールの大きな研究者だった。
(松原仁・はこだて未来大教授=人工知能)
2003/04/08

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